無関心な凝視

Daisaku on Nov 8th 2009

その少年が僕の隣に座ったのはどの駅からだったろうか。フード付きのパーカーに半ズボン、荷物と呼べるようなものは何も持っていないようだった。
仕事帰りの列車の中。いつも何かが噛み合わないような、宙ぶらりんの一週間に早く幕を引きたくて、僕は読書に集中していた。だから少年の乗って来た駅すら覚えていなかったのだが、手にした何かをしきりに弄るような彼の動作に、ふと視線を向けた。
少年の掌には、一丁の銃があった。M16と思われるアサルト・ライフルの、全体を寸詰まりにしたようなおもちゃの小銃。弾丸が詰まってしまったのか、縦にしてしきりに銃身を叩いたり、弾倉を何度も取り付けたり外したり、そんな動作を繰り返している。ひどく真剣そうな様子だった。
僕も子供の頃、おもちゃの拳銃で遊んだ。駄菓子屋で買ったコルト.45口径やらワルサーP38やらには、土くれを丸めて銀色に塗った銀玉と呼ばれる弾丸を装填できた。新聞紙一枚撃ち抜けないような代物だったが、マッチ箱などを並べては射撃の真似事をして遊んだ。エアガン用のBB弾を使えば命中精度が上がることを発見したのは少し大きくなってからのことだが、精巧なモデルガンの類を欲しいとは思わなかった。しかし、半ズボンのポケットに隠し持った小さな銀玉鉄砲が何を模していて、何のためにある道具なのかはよく理解していたように思う。
駅が近づく。座席を立つ人々から一歩遅れて、少年も立ち上がった。列車がプラットホームに滑り込む。ねずみ色のフードが揺れ、少年の浅黒い、思い詰めたような横顔を一瞬だけ覗かせて横切ってゆく。鈍い光を放つM16を右手に携えた少年を、しかし誰も気にはとめないままに歩み去ってゆく。発車のベルが鳴る。早くもホームからは人の姿が消える。薄暗いプラットホームに立つ彼を、見ていた目は僕のほかにもうひとつ、天井からぶら下がった小さな箱だけーー青白く塗られた監視カメラが、無機質な、そしてどこまでも無関心な視線を彼に投げかけていた。

カテゴリー: 日々

2 件のコメント »


Comments

  1. 都会的なワンシーンですね。
    意識して見ようとしないと実は何も見えていなくて、脳裏に焼きつくのは写真のようにとても曖昧な情景。私も毎日どれだけ無関心な視線を投げかけていることか。曖昧な情景のなかに見落としたものはなかったか。
    いろいろ考え中。無関心と執着、都会、ひとり、人とのスタンス、コミュニケーション。

    コメント by Tsu-bu — 09年 11月 11日 @ 8:42 PM

  2. Tsu-buさん、コメントありがとうございます。
    私自身もまだまとめきれていないのですが、この出来事に触発されて幾つかのこと、何枚かの写真が繋がりました。
    私も、ちょっと考え中です…。

    コメント by Daisaku — 09年 11月 11日 @ 4:09 AM

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