中綱湖にて
Daisaku on Aug 16th 2008

夜行列車を終点で降り、各駅停車に乗り継いでさらに北を目指す。すでに夜は明けているが、山々に囲まれた盆地の底に朝の光はまだ届かない。列車が進むにつれ左右の山の緑が迫る。ガラス瓶の首のように細くなってゆく盆地の北の端を塞いで、静かに水をたたえる木崎湖の姿が見えてきた。
長野県と富山県を隔てる後立山連峰の東の山裾、標高800mほどの山あいに、3つの湖が南北に並ぶ。南から順に木崎湖、中綱湖、青木湖と呼ばれ、仁科三湖と総称される大小3つの湖は、北アルプスへの玄関口となる大町とスキーヤーで賑わう白馬の中間に位置しながら、それぞれに静かな佇まいを残している。木崎湖は秋の紅葉と朝霧が特に美しいのだが、今回は次の駅で降りて、中綱湖から歩きはじめようと思う。
中綱湖の湖面は鏡のように静まり返っていた。国道に沿って湖岸を歩く。路傍の草には朝露が宿り、林からは夜気の名残りが伝わってくる。駅から歩いて20分ほど、湖の北辺近くに場所を見つけてカメラを構える。
ファインダー越しの静かな水辺。樹々の上を朝の靄がゆっくりと進むほかには、何ひとつ動かずにいるようだった。
夏の旅へ
Daisaku on Aug 10th 2008

夏山へ向かう夜行ほど、快適な眠りに縁遠い列車も少ないかもしれない。
暑さにむせ返る都会の夜から、重装備の山男たちで満員の車内に紛れ込み、汗もろくに拭えないままに狭い座席で寝酒を胃に流し込む。
それでも、レールの継ぎ目を拾う音と浅い眠りに身を任せたその翌朝、山の稜線がほのかに浮かび上がり、空が濃い青と朝焼けに染まり始めたら、もう眠気なんて吹き飛んでしまう。まばたきもせず車窓を眺めるうちに、空は刻一刻と色を変えてゆく。水蒸気が山肌をすべり、まだ見えぬ朝日が雲のふちをあかく染め始める。
やがて停車した無人駅でデッキに立ち、清冽な空気を胸いっぱいに吸い込んだら、今年もまた、夏の旅が始まる。
遠雷を聴きながら
Daisaku on Aug 2nd 2008

梅雨が明けた。樹々の間に蝉の声が響きはじめた。祇園さんも天神さんの船渡御も、今年も短いニュースの中にだけ聞いて、気がつけば関東も夏だった。
今日も真夏日の休日、網戸越しに吹く涼しげな風に誘われ畳に横たわる。どのくらい眠ったのか、風の止んだ気配にふと目を覚まして窓の外を見た。あたりは不思議な夕暮れの色…穏やかでいて艶かしく、懐かしくも恐ろしいようなアンバーの色に満たされていた。
急いでカメラを持ち出す。ベランダから、洗面所の窓から忙しくシャッターを切る。外に出て撮影場所を探す暇はない。夕暮れが美しさを極めるのはほんの一時だが、この何とも言い表せない琥珀色の時間は思いのほか長く続いたように思う。近くの公園から盆踊りのざわめきが聴こえてきて、ようやく我に返る。時刻は午後七時を過ぎていた。
遠く、低く、かすかに雷の音が響いていた。
