Archive for the '日々' Category

映画のない映画館で

Daisaku on Aug 30th 2010

昨夜、とある映画館で一夜かぎりのイベントが開かれた。
映画の試写会ではない。鑑賞会でもない。自主制作映画の上映会でもない。なにしろ、1分たりとも映画が上映されないのだ。しかし、そこには興奮があり、涙があり、場内を埋め尽くす歓呼の声があった。
昨年急逝した彼の、誕生日を記念するイベントに映像制作担当として参加することになったのは夏のはじめだった。80年代に多感な時期を過ごしたものとして、彼の音楽とダンスは消えることのない輝きとして自分の中にあったが、さほど熱心なファンとも言えなかったことも事実だ。しかし、彼は幻となった最後のステージのリハーサルで、彼を支えるキャストとスタッフに最大限の感謝と敬意を示して語る—。
「未体験の才能を見せよう」「未知の領域へ連れて行こう」「僕らが伝えるのは大切なメッセージだ」
キングと称され溢れる才能を持ちながら、謙虚に人に接する彼と、彼を支える作り手たちの人間性とプロフェッショナリズム。分野は異なっても、作り手が学ぶべき姿勢と、目指さなければならない高みがそこにはあった。

権利の関係で彼を撮影した映像は一切使えない。しかし、映画の上映にあたって音響の第一人者による徹底的な調整を行い、聖地とまで云われたあの映画館へ、400名という数の熱心なファンを招くのならば、入念に練りこまれた視覚上の演出やプログラムが不可欠だ。無償での参加は構わないけれど、プロとしての自分の姿勢と資質を常に自問しながらの制作になることは判っていた。映像の制作・編集も、自分の写真作品のスライドショーのほかはほとんど未経験と言ってよかった。
映像の制作は予想通り困難を極めたが、携わった皆さんの熱意に助けられて、なんとか完成に至った。お客さんの期待に応えられるものに仕上がったことは自負していたが、本番で体験することになったのは、予想を遥かに越える歓喜の渦だった。巧まずにあがる歓声、立ち上がりリズムを刻む人の波。心が動き始める瞬間を目にしたことは、忘れられない経験となった。そこには、確かにあの「高み」の片鱗が浮かんで見えていた。
ディレクターのYさん。素敵なイラストやデザインと素材を提供してくださった、また準備と進行に関わった皆さん。音にはまるで素人の私に繰り返し丁寧に解説しながら、徹夜で素晴らしい音響を創り出してくださった、サウンド・スペース・コンポーザーの井出祐昭さんと音響エンジニアの増旭さん。熱意とセンスをもって「映画のない」イベントを全面的に後押ししてくださったシネマシティの遠山さん。そして、最高の時間をともに創り出してくださった、ご来場の皆さん。誰ひとりが欠けていても、この素晴らしいイベントは成立しえなかったのです。
そして、不変の大切なメッセージを、素晴らしい普遍の音楽で繰り返し発信し続けた彼…MJに。

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無関心な凝視

Daisaku on Nov 8th 2009

その少年が僕の隣に座ったのはどの駅からだったろうか。フード付きのパーカーに半ズボン、荷物と呼べるようなものは何も持っていないようだった。
仕事帰りの列車の中。いつも何かが噛み合わないような、宙ぶらりんの一週間に早く幕を引きたくて、僕は読書に集中していた。だから少年の乗って来た駅すら覚えていなかったのだが、手にした何かをしきりに弄るような彼の動作に、ふと視線を向けた。
少年の掌には、一丁の銃があった。M16と思われるアサルト・ライフルの、全体を寸詰まりにしたようなおもちゃの小銃。弾丸が詰まってしまったのか、縦にしてしきりに銃身を叩いたり、弾倉を何度も取り付けたり外したり、そんな動作を繰り返している。ひどく真剣そうな様子だった。
僕も子供の頃、おもちゃの拳銃で遊んだ。駄菓子屋で買ったコルト.45口径やらワルサーP38やらには、土くれを丸めて銀色に塗った銀玉と呼ばれる弾丸を装填できた。新聞紙一枚撃ち抜けないような代物だったが、マッチ箱などを並べては射撃の真似事をして遊んだ。エアガン用のBB弾を使えば命中精度が上がることを発見したのは少し大きくなってからのことだが、精巧なモデルガンの類を欲しいとは思わなかった。しかし、半ズボンのポケットに隠し持った小さな銀玉鉄砲が何を模していて、何のためにある道具なのかはよく理解していたように思う。
駅が近づく。座席を立つ人々から一歩遅れて、少年も立ち上がった。列車がプラットホームに滑り込む。ねずみ色のフードが揺れ、少年の浅黒い、思い詰めたような横顔を一瞬だけ覗かせて横切ってゆく。鈍い光を放つM16を右手に携えた少年を、しかし誰も気にはとめないままに歩み去ってゆく。発車のベルが鳴る。早くもホームからは人の姿が消える。薄暗いプラットホームに立つ彼を、見ていた目は僕のほかにもうひとつ、天井からぶら下がった小さな箱だけーー青白く塗られた監視カメラが、無機質な、そしてどこまでも無関心な視線を彼に投げかけていた。

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見ること、撮ること、見られること

Daisaku on Sep 7th 2009

今日の写真は横浜港のシンボル、郵船の氷川丸。横浜市に住んでいながら、なかなか横浜の町や港を歩く機会はないのだが、先日久しぶりに、赤レンガ倉庫で開催された知人の個展を見に出かけた。横浜税関近くにあって港の歴史を見続けた上屋が解体されるまでを追った彼の写真は、この場所で展覧されるのにふさわしく、そして私的な「記憶」と写真の本分ともいえる「記録」の双方をバランスよく保った、とても丁寧な、良い作品だった。
心地よく刺激を受け、自分の写真を見返していた先週の水曜日のこと。一通のメールが私の元に届いた。はじめてメールをいただく方で、ブログで私の作品を紹介してくださったことを知らせて下さったのだった。とても嬉しくてさっそく見に行ってみると、率直だが感性豊かな表現で、作品の感想が綴られている。私や私の作品の本質のいくつかが的確にとらえられていて、読んでいてはっとさせられる印象的な文章だった。
写真を撮りたいと思う、写真を撮るということは、きわめて私的な動機から生じる行為だが、そうやって撮影されたひと駒ひと駒を編みあげて発表し、それを見てくださる人それぞれの心に何かしらの思いがうまれて、その時はじめて表現は社会性を得る。作品となってゆく。
しばらく間があいてしまったけれど、また少しずつ更新してゆきます。

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SICFを終えて

Daisaku on 5 月 9th 2009

ご報告がひとあし遅くなりましたが、SICFでの写真展は会期を終了いたしました。連休のさなか、本当に多数の方にご来場いただけたことに心より感謝申し上げます。とにかく熱心に見てくださった方が多く、いただいた感想のひとつひとつが私の創作活動の糧となります。ありがとうございました。
「光のシークエンス」は、私にとって新しい起点となるシリーズです。内容に一層の磨きをかけ展示方法を洗練させ、スケールを拡大して発表を続けていきたいと考えています。今回ご来場いただいた方もお越しいただけなかった方も、ぜひ今後の展開を楽しみにお待ちいただければと思います。よろしくお願いいたします。

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光の季節へ

Daisaku on Apr 19th 2009

久しぶりの更新となりました。新しい季節へ向けて、お知らせがふたつ。
東京、青山のスパイラルで毎年開かれるアート・イベント、SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)。さまざまな分野で活動するクリエーターが参加するこの楽しいイベントに、このたび参加が決まりました。
参加者はそれぞれのブースで趣向を凝らし作品をプレゼンテーションすることになります。わずかに2日間、そして個展というにはあまりにも小さなスペースですが、大洲大作の作品世界…そのトーンと新しい展開を体感していただけるように、アイデアを練っています。写真作家としての再スタートはベルリンから始まりましたが、日本では数年ぶりとなる今回の写真展にて、ひとりでも多くの方と出会えること、そして皆さんに楽しんでいただけることを願っています。どうぞお気軽にご来場ください。
Daisaku Oozu camera obscura
Sequences of Light
大 洲 大 作 写 真 展  光 の シ ー ク エ ン ス
2009年5月4日(月・祝)11:00〜20:00

5月5日(火・祝)11:00〜19:00
スパイラルホール(スパイラル3F)
第10回 SICF内 B39ブース

スパイラル http://www.spiral.co.jp/
東京都港区南青山5-6-23 東京メトロ表参道駅 B1、B3出口
tel.03-3498-1171 fax.03-3498-7848
SICF入場料:1日券 一般700円/学生500円
4日間フリーパス 一般1,500円/学生1,000円
入場料が20%OFFとなるクーポンはこちらから

年初に作品の掲載をお知らせしたドイツのアート誌 “Schöngeist” を、日本でも買えるようになりました。
ドイツ語教育、ドイツ文学書籍を中心に出版と流通を手がける東京の老舗、郁文堂さんが取り次ぎを行ってくれることになったもので、私の作品が表紙を飾っている Ausgabe 19(2008年冬号)も取り寄せが可能です。 “Schöngeist” は「芸術/生/思考のための雑誌」を掲げ、年4回刊行されているアート誌で、毎号それぞれのテーマのもとに幅ひろい作品が紹介されています。ドイツ語が読めなくとも、美しく示唆に富むビジュアルをページごとに堪能できます。ぜひお手に取ってみてください。
お問い合わせは…
株式会社 郁文堂 洋書部 http://www.ikubundo.com/
〒113-0033 東京都文京区本郷5-30-21
tel.03-3814-5575

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カレンダーのこと

Daisaku on Jan 21st 2009

昨年末、作品によるカレンダーを自主制作した。ドイツのアート雑誌 “Schöngeist” に作品が掲載されたところなので、掲載作品も盛り込みたいとカラーの作品の中からセレクトを行った。カレンダーなので多少の季節感を感じてもらえるようにと思いながら選ぶうち、モノクロームの作品に比べて、カラーの作品では季節によるカット数の変化が大きいことに気づいた。秋と冬に撮影された作品の方が、春と夏のものよりもやや多いのである。
大寒の今日、関東地方には昨日の陽気とうってかわって、肌寒い朝が訪れた。空には灰色の雲が重なって寒そうな雰囲気だが、それぞれの雲の下の方には、かすかに紅い光が照り返して見える。モノトーンの連なりの中に、ささやかな色彩が差しこむ様子はとても美しい。あるいは雪の降り止んだ午後、分厚い雲の切れ間から、僅かな時間だけ降りそそいだ夕暮れの煌めき。そういった時に微細な、時にドラマチックな色彩の変化に心を動かされる瞬間は、晩秋や冬に多いように思うのだが、いかがだろうか。
ご紹介しました2009年カレンダーには数に若干の余裕があります。ご希望の方には実費(600円分の切手にて。送料込)にてお頒けいたしますので、contact(アットマーク)oozu.info宛、メールをお送りください。折り返し、切手のお送り先をご返信いたします。カレンダーはA4版、1ヶ月1見開きで作品14点が収録されています。

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遠雷を聴きながら

Daisaku on Aug 2nd 2008

梅雨が明けた。樹々の間に蝉の声が響きはじめた。祇園さんも天神さんの船渡御も、今年も短いニュースの中にだけ聞いて、気がつけば関東も夏だった。
今日も真夏日の休日、網戸越しに吹く涼しげな風に誘われ畳に横たわる。どのくらい眠ったのか、風の止んだ気配にふと目を覚まして窓の外を見た。あたりは不思議な夕暮れの色…穏やかでいて艶かしく、懐かしくも恐ろしいようなアンバーの色に満たされていた。
急いでカメラを持ち出す。ベランダから、洗面所の窓から忙しくシャッターを切る。外に出て撮影場所を探す暇はない。夕暮れが美しさを極めるのはほんの一時だが、この何とも言い表せない琥珀色の時間は思いのほか長く続いたように思う。近くの公園から盆踊りのざわめきが聴こえてきて、ようやく我に返る。時刻は午後七時を過ぎていた。
遠く、低く、かすかに雷の音が響いていた。

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